吉里吉里語辞典紹介
吉里吉里語辞典
(1)吉里吉里語辞典とは
『吉里吉里語辞典』とは,吉里吉里地区で使われてきた方言である「吉里吉里語」を,標準語で説明した辞典です。この辞典は,吉里吉里地区在住の関谷徳夫さんが執筆し,2007年に出版されました。ところが,2011年3月11日の東日本大震災による大津波によって,関谷徳夫さんのご自宅も全壊し,保管していた『吉里吉里語辞典』は全て流され,データも失われてしまいました。
(2)電子データ化プロジェクト
津波で流されたアルバムなどを集め,洗浄し,修復するという作業をボランティアで行っていた明治学院大学の学生が,1冊の『吉里吉里語辞典』を発見してくれました。その1冊を関谷徳夫さんの許可を得て,明治学院大学教員が東京に持ち帰り,1ページずつしわを伸ばしてスキャンし,全511ページの画像データを作成しました。この画像データを見ながら,一語一語手作業で入力し,電子データ化するプロジェクトを2011年6月26日に開始しました。
明治学院大学学内外からボランティアを募り,134名の方がボランティアとして入力作業に参加してくださり,2011年11月20日に,全ページの電子データ化作業が完了いたしました。現在は,入力済みのデータをプリントアウトし,著者である関谷徳夫さんに校正作業をお願いし,校正済みの原稿に基づいて,電子データを修正しているところです(2012年3月10日現在)。
(3)アーカイブ化プロジェクト
2011年9月より,入力済みのファイルをプリントアウトして吉里吉里に持参し,住民の方々に「吉里吉里語」を実際に話していただき,それをICレコーダーやビデオカメラを用いて,録音・録画するという作業を開始しました。
また,音声データの収録作業を進めていくうちに,吉里吉里語のひとつひとつにまつわるたくさんの思い出を,吉里吉里のみなさまからお話いただくことができました。この思い出を,文字データとして保存するアーカイブ化活動も開始しております。この活動には,ほぼ1年間程度かかる予定でおります。
(4)吉里吉里語の例
「朝な菓子」
読み方・・・あさなか°す(「か°」は鼻濁音を示します)
意味・・・朝,起き抜けの子供(達)に与えられる菓子類。おめざ。
用例・・・今朝の~ぁ燃ぇだぁ芋ぉ一っつづだぁぞ!
解説・・・標準語の感覚では,おやつは午後3時ごろ食べるものと思ってしまいます。すると,なぜ朝におやつが必要なのか不思議に思いますね。その理由は,1930年代の日本の農山漁村の生活を知るとわかります。当時の家族はお父さんお母さんと,6〜8人程度の子供からなる家族でした。両親は朝早くから海や浜へと仕事をするために出てしまいます。年少の子供たちを床から起こし,朝ご飯を食べさせるのは,年長の子供たちの役割でした。ぐずっている小さな子供たちの目を覚まさせるためには,「おめざ」すなわち「朝,起き抜けに与えられるお菓子類」が必要だったのです。
音声・・・藤原ミネ子さん
「隠れか°っこ とんか°っこ」
読み方・・・かくれか°っこ とんか°っこ
解説・・・子供たちが集まって,かくれんぼをするときの掛け声です。今の子供たちは,遊びをするときにその遊び固有の「掛け声」が存在することに,まず驚くでしょう。筆者が子供の頃(1970年代前半)にも「掛け声」は存在しており,「かくれんぼするもの 寄っといで」でした。
『吉里吉里語辞典』第2版には,「隠れか°っこ とんか°っこ」につては,「この後,何と言ったか失念」と記されていました。しかしながら,音声データ化の作業中に,
かくれか°っこ とんか°っこ
とうになったら とまれ
おにになっても こ°せやく°な(こ°せやか°ねぇこ)
とうのえ
と続いていることがわかりました。
音声・・・関谷徳夫さん,芳賀フクエさん